しょんべんおばけ日記

40代会社員 Agender Aromantic

北海道のトランス医療の問題点

性別変更の生殖腺手術要件が10月に最高裁違憲、無効となる判決がでました。

私の受け止めとしては、LGBT理解増進法の議論は非常に残念なありさまだったので、今回の違憲判決には本当に驚きました。とても嬉しいです。

地元の北海道新聞の記事は比較的好意的な扱いだと思います。(ときどきヘイト団体の記事を掲載したり差別的小説の書評を載せる以外は)

 

今日の北海道新聞では「くらし」のページでGID学会の中塚理事長のインタビューとともに道内の当事者らの反応などが大きく取り上げられました。

www.hokkaido-np.co.jp

 

こちらはトランスXコミュニティの川島さんへの取材。

www.hokkaido-np.co.jp

 

記事では、手術が保険適用で行えるようになったもののホルモン治療は保険適用外のまま。手術は実質自費診療であること、保険適用での手術が認められている医療機関は道内では札医大病院と札幌中央病院の2カ所しかないことが報じられていました。

やっと地元紙がこのくらしや医療の話題として扱ってくれるのか!という喜びとともに、「なぜ札幌医大病院に取材に行かないのか?」という疑問もわきます。

 

さっぽろレインボープライドなどで配布した「トランスジェンダーを知るためのブックガイド」にも少し書いたのですが、北海道のトランス医療の実態に私は大きな不満を持っています。

・札幌医大初診抽選制と絶対に予約の取れない婦人科問題

まず、認定施設である札幌医大病院を受診すること自体のハードルが高いです。治療にたどりつくための待ち時間がとても長いのです。

初診が抽選式で、数ヶ月から2年以上かかる状態がずっと継続しています。その間、性別への違和感や社会的な問題を緩和するための手段や情報提供もジェンダークリニックからはなく、地域で公開されている医療情報も極端に少ないです。道内の一般の医療機関は性別不合での受診を今でもほとんど断っているようで、多くの当事者は一般の病院でホルモン療法さえ対応してもらえれば相当助かるにも関わらず、診療してくれる病院がないために遠方から札幌医大まで通う、という問題がいつまでも改善されません。

また、実際に通院を始めても「性別不合」の診断がとれ、さらに身体治療の審査が通るまで注射一本打ってもらえません。診断には一般に半年以上はかかるのですが、さらに婦人科の予約がまったく取れないという問題が横たわります。私自身、単に婦人科の予約をとるためだけで半年ほど足踏みしている状況です。

 

こちらは北海道が公開している性別違和の診療を受けている医療機関リストです。道内に5カ所しかありません。

性別違和等の診療について - 保健福祉部福祉局障がい者保健福祉課

診療している病院は他にもあるはずですが、情報を探し、自分で病院と交渉する必要があります。偏見に満ちた対応をする医療者も少なくない中、それを当事者が行うのはメンタルヘルス上のリスクもあります。

渕上道議がこのような医療アクセスの状況を行政として改善できないか北海道議会で質問してくれたことがありますが、道側は関心を示しませんでした。

 

・札幌だけ未ホルの乳房切除が保険適用されない問題と、差額ベッド代

現在、ホルモン治療前の乳房切除には健康保険を適用できます。ところが札幌医大病院ではなぜか保険適応せずに、全額自費での支払いを求めています。病院側からの説明では、保険適用して胸オペ手術後にホルモン治療を受けた場合、あとから差額を健康保険協会などから請求される可能性があること、また、患者にあらかじめ、「今後ホルモン治療をしません」という約束を求めることもできないことを理由としています。

しかし、このような解釈を他の認定病院はしておらず、ふつうに保険適用しています。また、札幌医大では性別違和をもつ患者の入院時は個室対応するというきまりになっているそうで、差額ベッド代が上乗せされます。法律的な解釈は私には分かりませんが、少なくともこれを患者側が負担しなくてはならないのか、説明が必要だと思います。

(ちなみに、乳腺外科受診時に差額ベッド代は必要なのか質問しましたが教えてもらえませんでした。手術を行うのは別な病院だから、だそうです)

(ちなみに噂だと、乳房切除の保険点数が低く、保険適用すると費用が足りないらしい、とか、ホルモン注射は全額自己負担なのはわかるとしても、よく見たらさらに割り増しされている…などという話もあります。真偽は不明です。)

乳房切除は本来一般の美容形成でも可能なはずですが、道内で対応している病院は1カ所しか私は知りませんし、そもそも入院設備がない病院では不安があります。

・治療の選択肢について十分な情報提供がない点

札幌医大に限らず精神科で性別違和の相談をすると「どこまで望みますか」という質問をされます。どの治療を受けるかは本人の自己責任の範囲であり、医師は意思決定の支援をする役割であるということになっています。ところが、実際にはニーズに合わせた情報を十分に提供してくれない、という問題があります。

 

7月に発売された『トランスジェンダー入門』(集英社)で、男性への変更についてはこれまでも生殖腺の除去を必要としなかったケースがあることを知りました。私は地元の当事者グループには時折顔を出しますし、書籍についてはまぁまぁ見ているほうだと思いますが、このような情報を私は聞いていませんでした。

 

以下は、朝日新聞の8月の記事ですが、50代トランス男性で閉経後のため手術なしで性別変更が認められたケースが3例、GID学会で報告されたという記事です。つまり3月の学会開催時点で札幌医科大学病院GIクリニックはこの例を把握していたはずです。


手術受けずとも性別変更 女性から男性へ 裁判官により分かれる判断:朝日新聞デジタル 

digital.asahi.com

 

ですが、私はこの情報を教えてもらっていません。私は40代で卵巣がありますから、当然これは私の治療の決定に影響のある情報です。私自身、これまでも精神科と婦人科の両方で子宮のみの切除という選択肢についての医学的な面からの意見を求めていましたので、この情報が与えられなかったことには不信感を覚えています。

 

手術の選択は自己責任で行うものです。医師との面談でも私は「自己責任で決定します」と宣言をしています。ですがそこでいう「自己責任」とは医学的な情報までも自分がすべて収集し判断する、というようなものであるわけがありません。

主治医は経験豊富な専門医であり、礼儀正しいひとです。不必要なダメージを与えることを避け、なるべく治療がスムーズに進むよう適切な対応をしてくれています。

問題は地域医療のありかたや性別不合の診断のガイドラインにあると感じます。

 

今回北海道新聞が医療の問題としてくらしのページに相当な分量を取って取材して書いてくれたことに感謝します。(一方で「慎重論」をトランス女性から収集するというやり方に過度に傾く恐れがないかも注目していこうと思います)