待望の「トランスジェンダー入門」の感想その1
待望の「トランスジェンダー入門」とうとう発売されましたね!
なんでみんなバリバリのシスジェンダーのつもりで生きてるのか謎だったので、もうみんなトランスになるべきでしょ、入門入門💙とか思ってわくわくで読みました。
ざっくり読んだ感想というか第一印象を書き留めておきます。
タイトルはやっぱ、「トランスジェンダー問題」に似た感じにしたかったんでしょうか?
トランスジェンダー問題の訳者による日本の状況の解説がなかなか面白いというか、あれがないと日本の読者にとってわかる感を持ちづらいかなと思ったので、この「入門」はセットで売りたいですね!
「問題」の方はわりと政治性が豪速球で、例えば刑務所やめろとかセックスワークのこととか、めちゃくちゃ面白いし目から鱗なんだけど、とにかく話がデカくて、おおっおおっ!てなってました。章のタイトルが「国家」とかですもん。やばいよね💛
一方今回の「入門」は初心者向きの新書ですから、さすがに読書の苦手な私でもつらくなく読める語彙や文体になっていて、扱っているテーマも幅広く理解度も高いです。わかりやすいのをありがたがってすみません。
定義的な部分から始まり、誰が語るのかの権力性批判もあり、私の大好きな医療や法律の話もしっかり。今後図書館に「トランスジェンダーの定義は?」的なリファレンスを求めるひとがいれば、この本が第一に紹介されるのでしょう。
今回成立したLGBT法では、よくわからない理由で「ジェンダーアイデンティティ」が採用されたのですが、法案作成の過程で「性自認」「性同一性」に違う意味が勝手に与えられてしまったことに腹が立っていたので、これら3つの言葉に意味の違いがないことが断言されているの、とても良かったです。
「MTF/FTM」などこれまで使用されていた言葉が今ではあまり使われなくなった理由などが書かれていること、定義や説明ではうまくとらえきれない人々がいることなど、トランスのことを語るとき、「言葉」って考え方を共有することなんだなぁって思いました。
「身体の性」「心の性」というフレーズを使うことの問題点がどう解説されるのかは、けっこう期待していました。まだまだ報道などでも多く目にしますし、とりまわかった気になってもらわないといけないときには使うんでしょうが、私は嫌いなんですよね。
特に「身体の性」の解説は良かったです。「心の性」解説はなんか物足りない気持ちがします。元々ぼうっとした言葉でもありますが、そもそも「ジェンダーアイデンティティ」というもの自体にシスジェンダーの人の多くがぼんやりとした理解をしていることが「心の性」という言い回しの使い勝手の良さを生んだんじゃないかと思うので。
ただ、発達心理学的な説明とか医学的なやつとかはあんまなんていうか、すでに本あるしな。深入りする必要ないかもしれません。なんかトランスにしかないもの的な扱いすんな的な成分がもっとほしい気はしました。結局私もよくわからないし。
LGBT解説本や研修などで多用される「性のグラデーション図」やジェンダーブレッドパーソンとかの問題点の検討が特にないこともちょっと不満かな。ま、トランスの話だし、「身体の性」批判が充実してたからいいか!
楽しくて面白かったのはp.108 からの「メディア〜表象と報道」の例示ですね。
Netflix のドキュメンタリー「Disclosure トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして」の話から、映画のなかのトランスの描き方のダメ出し祭り。
「彼らが本気で編むときは」など日本の作品も出てきます。ひとつ引用すると、
医学的な移行をしたせいで死ぬ 例:「ミッドナイトスワン」
…など、説明が端的ですこぶる良い。手を叩いて喜びました。
とはいえ、それらダメ作品たちも私はまぁ、楽しんできたのですが。「ミッドナイトスワン」は観てませんが、「リリーのすべて」とか「彼らが本気で編むときは」とかね。(ちんこいっぱい編んで供養するのはさすがに当時も微妙だとは思いました。ちんこ自体には愛着のあるタイプのトランスかなという受け止めをしています。排尿には便利)
自分の関心としては4章の医療のあたりがめちゃくちゃ面白かったです。
脱病理化やIC(インフォームドコンセント)モデルの話は、もっといっぱい聞きたい!
今後国内の報道でトランスの医療扱うときには、この視点での取材がされるんですよね?すごく嬉しいです。ほんと不満だったので。
ただ、批判というか疑問というか、やっぱ批判か。「正規ルート」と「闇ルート」という表現を使って、ガイドライン通りの医療ではないものを悪いことのように扱うことには問題を感じます。
実のところ、ガイドラインは患者(クライアントのほうがいい?)本人のためにあるというよりは、医師や医療機関を母体保護法や患者の配偶者の苦情から守るためにあるように私には感じられます。地方在住で仕事がそんなに休めるわけでもないときに、やたら時間と手間がかかる、なんなら人権侵害的なステップを含む「正規医療」をどうしてそんなにありがたがらなくてはいけないのでしょう?当事者たちも実際けっこう両方利用してません?
医師免許のある医師から自由診療でホルモンを投与してもらうことや、美容整形での乳房切除って、その「ICモデル」とは違うんですか?
この「入門」では、ガイドライン外の医療を「闇」と呼ぶ意図も、その「闇」医療の範囲も明確ではありません。この点気になりましたので、まずは書き留めておきます。
医療については自分の愚痴ふくめ、だれかにちょっと聞いてほしい気持ちがあるので、あらためて書けたらいいなと思います。
あきらさん、ゆと里さん、集英社さん、素晴らしい本を超スピードで出版してくださって本当にありがとうございます。大好きです。
この先、もっと書いてくれる人が増えますように
ところで、読んでいてぽろっと出てきた愛読者カードが性別欄男女二択なのは笑ってしまいました。上からノンバイナリーって激太マジックで書こう。
集英社新書といえば、吉永みち子「性同一性障害 性転換の朝(あした)」を思い出します。
2000年の「性同一性障害 性転換の朝」と2023年の「トランスジェンダー入門」、対比して読むとふたつのパラダイムシフトが経験できる感じでお得です。
2000年って、トランスジェンダーの本って数えるほどしかなく、また検索性も悪かったんですよ。スマホもないし、インターネットとかも全然情報少なかった時代で。OPACも一般人が使えるようになったの、そのころですよね?
いま個人が発揮できる情報収集能力をつい当たり前だと思ってしまうけど、当時の私は書店で見かけるかどうかに依存していました。ですから吉永さんの新書はありがたかったです。その直後に「性同一性障害特例法」ができたわけで、この本は性同一性障害への社会の好意的な受け止めに貢献したと思います。集英社さんありがとうございます。
そういえば「LGBTとハラスメント」「差別は思いやりでは解決しない」も集英社新書でしたね!
やば、積んでたわ!!